Column

「ベンチャー型事業承継」という言葉が誕生した時の話

2016.12.26
ベンチャー型事業承継新文化

ベンチャー型事業承継とは

21日にNHK「おはよう日本」で「ベンチャー型事業承継」を取り上げていただいた以来、想定していた以上の反響をいただいていて正直おののいています(笑)。賛否両論は覚悟していましたが、エールの声が多くてびっくり。

NHKおはよう日本「廃業を減らせ 新たな取り組み」 サマリー@番組HP

 

ご存知ない方のために「ベンチャー型事業承継」を改めて解説しますね。

【ベンチャー型事業承継とは】
若手後継者が、家業が持つ、有形無形の経営資源を最大限に活用し、リスクや障壁に果敢に立ち向かいながら、新規事業、業態転換、新市場開拓など、新たな領域に挑戦し続けることで永続的経営をめざし、社会に新たな価値を生み出すこと。

 

成長力のある事業を展開する起業家を意味する、いわゆる「ベンチャー」でもなく、先代の事業をそのまま承継する、いわゆる「後継者」でもない、新しいジャンルを創ってしまおうという試みです。

目的は、「家業の経営資源を使って新しいビジネス始めようぜ、ベンチャー起こそうぜ」というメッセージを若い世代に伝えること。彼らの家業の見え方を変えることです。

 

◆「一行でいいから『ベンチャー型事業承継』という言葉を、国のベンチャー政策に入れてください」。

この想いを引っ提げて、経済産業省に道場破り(!)したのは2016年初夏。

私はこれまでベンチャー支援の仕事も中小企業支援の仕事も長年携わってきました。その中でしみじみ感じた不思議。

ベンチャー支援では、夢を実現するために挑戦する起業家をかっこよく発信するのに、事業承継では、税金や株価対策、廃業問題など、まぁ要するにワクワクしない話ばかり。

両者とも「将来、経営者になるかもしれない」同じ世代の若者なのに、大人から見せられる世界はまったく違うわけです。ベンチャーは若者視点で描かれるのに、事業承継は完全に「継がせる立場」からのオジサン目線。

 

なんでなんで?
そりゃ若い人が家業を継ぐ未来にワクワクせんわ。そりゃ後継者不在にもなるわ。

 

だからオジサン目線の従来型の政策ではなく、ベンチャー政策の一つに事業承継を組み込んでもらうように、経済産業省にお願いしに行ったわけです。ま、もちろんそんなに簡単なことじゃないので、この時は想いを伝えただけに終わりました。

でも、その後、近畿経済産業局のベンチャー支援策に携わる機会を得て、いままさに「ベンチャー型事業承継の国策化」をめざして奮闘中です。

 

◆M社長の話

「ベンチャー型事業承継」という言葉を創ったのは、実は自動車部品の通販事業を手がけるM社長です。

ベンチャー経営者の印象が強い人ですが、実はおじいさんが創業した自動車部品商の三代目。先代から受け継いだ経営資源にITビジネスのノウハウを掛け算して、「家業」を「企業」に成長させ、海外展開にも挑戦していらっしゃいます。ベンチャー企業の事業展開力と、同族企業の永続性を重視した手堅い経営判断を、絶妙なバランス感覚で併せ持つ素晴らしい社長さんです。

でもベンチャー起業家の集まりに行っても、後継者の集まりに行っても、ちょっとした違和感があり、次第にご自身のことを「ベンチャー型事業承継」と名乗るようになったそうです。

最初にこの言葉をM社長からお聞きした時、「これだ!!!」と思いました。そうだ、ベンチャーでも事業承継でもない、「ベンチャー型事業承継」という新しいジャンルをつくっちゃえばいいやん、と。

事業承継という言葉がもつ受け身のイメージが、一気に能動的になる。「継ぐ側」の若い世代が主体の頼もしい言葉になる。家業を継ぐかどうか迷っている学生はもちろん、先代や古参の社員との軋轢で葛藤している若手後継者もこの言葉できっと奮起できる。

彼らが家業を継ぐのは、親の人生を歩むためでもなければ、日本の廃業問題を解決するためでもない。
家業というステージで、彼ら自身のビビッドな人生を生きるためだ。
親と同じことをするのが事業承継じゃない。
経営資源がすでにあるのは絶対的なアドバンテイジ。でも立ちはだかる障壁も苦労も重圧も起業家以上にテンコモリ。
プラスもマイナスもいっさいがっさい引き受けて、生き残るために新しいビジネスに果敢に挑戦する。

この、めちゃくちゃかっこいい世界観を新しい経営者のジャンルにしようと。
そう思い立ち、編集長を務めるビジネス情報紙「Bplatz」で特集を組んでみたり、霞が関に道場破りをしてみたり、「ベンチャー型事業承継の伝道師」として活動を始めたわけです。

 

◆「ベンチャー型事業承継」が日本を救う!?

私がやってる「ガチンコ後継者ゼミ」の学生の多くも、家業は斜陽産業だと思いこんでたり、親が敷いたレールに乗るのが後ろめたかったり、彼らのモヤモヤはけっこう根深い。

でも「起業家もかっこいいけど後継社長もかっこいい」という文化が、彼らのモヤモヤを取っ払うキッカケには必ずなる。家業を継ぐ人生が一つの選択肢になる。

「ファミリービジネスの事業承継」と「広報戦略」を長らく専門にしてきた私自身にとっても集大成の仕事です。「ベンチャー型事業承継」という言葉と定義を日本に定着させるために、これからも共感していただける方々の力をお借りしてできることを取り組んでいこうと思います。

 

今回のNHKの報道で寄せられた反響に、私自身はとても大きな力をもらいました。「後継ぎもかっこいい」という世界観をつくる取り組みなので、どんより暗い廃業問題と抱き合わせで報道されるのは本意ではないのですが(笑)、マスコミの皆さんの力を借りて「ベンチャー型事業承継」という言葉をたくさんの人に知ってもらえるのは本当に本当にありがたいことです。

取材でも答えましたが、この言葉が日本に定着して、家業の経営資源で新たな挑戦を始める若者が増えれば、廃業問題も世代交代の高年齢化も自然に解消していくと思います。そして、今ある経営資源に何かを掛け算して新しい価値を生み出す、日本ならではのREMIX的ベンチャー文化が海外からもリスペクトされる日が来るかもしれません。

賛否両論上等。炎上上等。何もしないでいるよりずっとマシ。ネガティブな意見も含めて、この言葉についてたくさんの人に議論してもらうことが、日本に定着させる第一歩だと思っています。

 

これからも、長らくアンタッチャブルだったこのテーマに、若い世代を主役にして、明るく朗らかに斬り込んでいく所存です。

(※共感してくださった方、もしよろしければこの記事シェアしてください)

 

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あ、そうそう。この定義を読んで「これって俺のことじゃないか!」と思った後継ぎ社長の皆さん。今日から堂々と「わが社はベンチャー型事業承継だ」と名乗ってくださいね。皆さんを追いかける若者が増えるように、ボトムアップでみんなで、この言葉を広めていきましょー。

 

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profile

山野 千枝

代表取締役

山野 千枝CHIE YAMANO

1969年生まれ、岡山県出身。専門はファミリービジネスの事業承継、広報ブランディング。1991年関西学院大学卒。ベンチャー企業、コンサルティング会社を経て、大阪市経済戦略局の中小企業支援拠点「大阪産業創造館 」の創業メンバーとして2000年より参画。広報主幹、事業部長などを歴任。また2001年の創刊以来、ビジネス情報紙「Bplatz」の編集長として、多くの経営者取材に携わる。関西圏の大学で、親が商売を営む学生を対象に「ガチンコ後継者ゼミ」を主宰し、家業で新たなビジネスに挑戦する「ベンチャー型事業承継」を提唱。

また、近畿経済産業局のベンチャーエコシステム構築事業「Next Innovation」では、全国で初めてベンチャー政策の対象に中小企業の若手後継者を定めたアクションプランを提言し話題となる。2018年には、この活動を全国に広げるため、若手アトツギ特化型ベンチャー支援団体「一般社団法人ベンチャー型事業承継」を設立、代表理事に就任した。

「存続力は競争力」をテーマに講演実績も多数。アセアンの経営者を対象に日本の長寿企業文化についての研修などを通して、永続経営の価値を広く伝えている。

2016年には、会社の歴史を活用した企業ブランディング、採用メディアや社史制作を手掛ける株式会社千年治商店を開業。

◇その他の役職
一般社団法人ベンチャー型事業承継 代表理事
大阪産業創造館・大阪イノベーションハブ チーフプロデューサー
大阪市立大学 学長特別顧問
公財)大阪市都市型産業振興センター 広報担当フェロー
経済産業省 近畿経済産業局 「Next Innovation」事務局 プロジェクトリーダー
経済産業省 ファミリービジネス検討会委員
関西大学「後継者ゼミ」 非常勤講師
マイクロ波化学株式会社 広報顧問

関西学院大学(2011~17年)・甲南大学(2012~14年)非常勤講師